ロマン派の協奏曲 — メンデルスゾーン・ブラームス・チャイコフスキー
パガニーニの技巧と対をなす、 ロマン派の大協奏曲の黄金時代。 メンデルスゾーンのホ短調、 ブラームスのニ長調、 チャイコフスキーのニ長調、 ブルッフのト短調 — 今もコンサートの中心リパートリー。 それを支えた名手ヨーゼフ・ヨアヒム、 作曲家と演奏家の協働。 技巧と音楽性を兼ね備えた協奏曲がいかに生まれたかを辿る。
「技巧」 から 「音楽」 へ
パガニーニが 技巧の極限を示した後、 ロマン派の作曲家たちは 技巧と 音楽的内容を 両立させた 大協奏曲 を目指した。 その結果 生まれたのが、 今も コンサートの中心リパートリー となる名協奏曲群である。
これらは 一人の作曲家が 一生に 1〜2 曲しか書かない、 渾身の大作。 ピアノ協奏曲ほど 数は多くないが、 一曲一曲が 別格の重みを持つ。
メンデルスゾーン — ホ短調協奏曲 (1844)
フェリックス・メンデルスゾーン (1809-1847) の ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品 64 は、 ロマン派協奏曲の 最も愛される 一曲:
- 冒頭 すぐに 独奏ヴァイオリンが 主題を歌い出す (前奏なし) — 当時 画期的
- 3 楽章が 切れ目なく 連続する 革新的構成
- 甘美で 流麗な 旋律、 技巧と 抒情の 完璧なバランス
- 名手フェルディナント・ダーヴィト の助言を得て 書かれた
「4 大ヴァイオリン協奏曲」 (メンデルスゾーン・ベートーヴェン・ブラームス・チャイコフスキー) の 一角。 入門にも 名手の名刺代わりにも なる、 別格の人気曲。
ブラームス — ニ長調協奏曲 (1878)
ヨハネス・ブラームス (1833-1897) の ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品 77 は、 交響的で 重厚な 大協奏曲:
- 親友の名手 ヨーゼフ・ヨアヒム に 献呈、 助言を得て 書かれた
- あまりに オーケストラが 雄弁なため、 「ヴァイオリンに 逆らって書かれた協奏曲」 と 評された (ヴァイオリニスト泣かせの難曲)
- 第 2 楽章の オーボエの 美しい主題、 第 3 楽章の ハンガリー風の 情熱
- ベートーヴェンと 同じ ニ長調で、 その 後継を意識
ブラームスの協奏曲は 技巧が 音楽に完全に奉仕する — 難技巧が 目立たず、 交響的な 音楽に溶け込む。
チャイコフスキー — ニ長調協奏曲 (1878)
ピョートル・チャイコフスキー (1840-1893) の ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品 35 は、 ブラームスと 同じ 1878 年 に完成した 対照的な名作:
- 華麗で 情熱的、 ロシア的な 歌に満ちる
- 初演を依頼された名手 レオポルト・アウアー が 当初 「演奏不可能」 と 拒否 (後に評価を改める)
- 献呈先が 二転三転した 曲折の作品
- 終楽章の 熱狂的な ロシア舞曲
技巧の華やかさ (パガニーニの系譜) と 濃密な抒情 (ロマン派) を 両立し、 現代でも コンクール・コンサートの 最高峰リパートリー。
ブルッフ — ト短調協奏曲 (1866)
マックス・ブルッフ (1838-1920) の ヴァイオリン協奏曲 第 1 番 ト短調 作品 26 も 定番中の定番:
- 親しみやすい 甘美な旋律、 「4 大」 に次ぐ人気
- ブルッフ自身は この一曲の人気に 生涯 複雑な思いを抱いた (他の作品が 埋もれたため)
- 名手 ヨアヒム が 改訂に協力
ヨアヒム — 作曲家と演奏家の 協働
ロマン派協奏曲の 影に、 一人の名手がいた — ヨーゼフ・ヨアヒム (Joseph Joachim、 1831-1907):
- ブラームス協奏曲の 献呈相手・助言者、 ブルッフの改訂協力者
- バッハの無伴奏を 演奏会で復権させた立役者 (第 4 記事参照)
- ベートーヴェン協奏曲を 芸術作品として定着させた
- 自身も カデンツァ (独奏の即興的聴かせどころ) を作曲、 今も使われる
「作曲家が 名手のために書き、 名手が 作品を育てる」 — この 協働が ロマン派協奏曲を 生んだ。 ヨアヒムは その 象徴的存在。
4 大ヴァイオリン協奏曲
現代の コンサートで 別格の地位を持つ 4 大協奏曲:
| 作曲家 | 調 | 年 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ベートーヴェン | ニ長調 | 1806 | 交響的な 王 (第 5 記事) |
| メンデルスゾーン | ホ短調 | 1844 | 流麗・抒情の 極み |
| ブラームス | ニ長調 | 1878 | 重厚・交響的 |
| チャイコフスキー | ニ長調 | 1878 | 華麗・情熱・ロシア的 |
これに ブルッフ・シベリウス・ドヴォルザーク を加えて 「主要協奏曲」 群を形成。 ヴァイオリニストは これらを どう弾くかで 評価される。
室内楽の 黄金時代でもあった
ロマン派は 協奏曲だけでなく 室内楽 も充実:
- ベートーヴェン・シューベルト・ブラームスの 弦楽四重奏
- ヴァイオリン・ソナタ (ブラームス 3 曲、 フランク、 フォーレ)
- ピアノ三重奏・ピアノ五重奏 — ヴァイオリンが 室内楽の 中核
ヴァイオリンは 独奏 (協奏曲) と 合奏 (室内楽・オーケストラ) の 両面で ロマン派音楽の 中心にあった。
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ロマン派の 大協奏曲と、 それを支えた ヨアヒムを辿った。 次記事では 世紀の変わり目 — シベリウス の協奏曲 (1905) が ロマン派協奏曲の 最終形を示し、 新ウィーン楽派 (シェーンベルク・ベルク) が 調性を超えた 20 世紀の弦楽へ 踏み出す 転換点に迫る。 そして 録音技術の登場が、 演奏家の あり方を 一変させる。