印象派・新ウィーン楽派 — 20 世紀初頭の 3 大革新
1890-1913 の 20 年、 音楽史最大の 転換点。 ドビュッシー (1862-1918) [牧神の午後への 前奏曲] (1894) と [ペレアスとメリザンド] (1902) が フランス印象派を確立、 ラヴェル (1875-1937) が 洗練を追加。 ウィーンでは シェーンベルク (1874-1951) が 1908 年以降 「無調」 へ、 1923 年 「12 音技法」 を発明、 弟子ベルク・ヴェーベルンと 新ウィーン楽派を形成。 1913 年 5 月 29 日、 パリで ストラヴィンスキー [春の祭典] 初演、 大暴動 — 20 世紀音楽の 大爆発を辿る。
1890-1913 — 音楽史の 大爆発
前記事 [国民楽派・イタリア・オペラ] の 19 世紀後半から、 世紀末 (fin-de-siècle) に 音楽は 大きく 転換。 1890-1913 年の 23 年間 に 3 つの 決定的革新:
- 1894 年 — ドビュッシー [牧神の午後への 前奏曲] — フランス印象派の 確立
- 1908 年 — シェーンベルク [3 つのピアノ曲 Op. 11] — 無調 (atonal) 音楽 の 確立
- 1913 年 5 月 29 日 — ストラヴィンスキー [春の祭典] パリ初演 — バレエ・リュス、 音楽史の 大事件
これらは 「調性 (tonality)」 の 解体 という 共通点を持つ。 500 年続いた 「長調・短調の 体系」 が、 崩れ始める。
「世紀末」 — 時代の 空気
1890 年頃、 ヨーロッパは 世紀末的雰囲気:
- 象徴主義文学 (マラルメ、 ヴェルレーヌ、 ランボー) — フランス
- 表現主義絵画 (ムンク [叫び] 1893) — ノルウェー・ドイツ
- アール・ヌーヴォー (装飾芸術) — パリ・ウィーン・ブリュッセル
- フロイト [夢判断] 1900 — 精神分析の 開始
- ウィーン分離派 (クリムト、 シーレ) — オーストリア
「19 世紀の 確立した秩序」 が 崩壊寸前、 「新しい表現」 を 求める 空気。 音楽も この 潮流の 一部。
フランス印象派 — ドビュッシーと ラヴェル
前シリーズ [ピアノの系譜] の 08 で ピアノ音楽中心に 詳述。 本シリーズでは ピアノ以外 を 中心に。
クロード・ドビュッシー (1862-1918)
オーケストラ作品
- [牧神の午後への 前奏曲] (1894) — マラルメの詩 から、 印象派音楽の 出発点
- [夜想曲 3 曲 (Nocturnes)] (1899) — 「雲」、 「祭」、 「シレーヌ」
- [海 (La mer)] (1905) — 3 楽章の交響詩、 葛飾北斎の 版画 「神奈川沖浪裏」 が 表紙
- [イベリア] (1905-1908)、 [春 (Printemps)]
- [遊戯 (Jeux)] (1912-1913) — バレエ、 ディアギレフの 委嘱
オペラ
- [ペレアスとメリザンド] (1902) — 唯一の完成オペラ、 メーテルリンクの 象徴主義戯曲、 ワーグナー的和声 + フランス的繊細
室内楽・声楽
- [弦楽四重奏 ト短調 Op. 10] (1893) — 唯一の 弦楽四重奏
- [フルートとヴィオラ とハープのためのソナタ]、 [チェロ・ソナタ]、 [ヴァイオリン・ソナタ] (1915-1917) — 晩年の 3 つのソナタ
- 多数の 歌曲 — ヴェルレーヌ、 ボードレール、 マラルメ
モーリス・ラヴェル (1875-1937)
オーケストラ・バレエ
- [ダフニスとクロエ (Daphnis et Chloé)] (1912) — バレエ、 ディアギレフ委嘱、 ラヴェル最大の 傑作
- [ラ・ヴァルス (La Valse)] (1919-1920) — 「ウィーンの 崩壊するワルツ」、 第一次大戦後の 世界観
- [ボレロ (Boléro)] (1928) — 世界一有名なラヴェル
- [マ・メール・ロワ] — 童話バレエ (前シリーズ 08 参照)
オペラ
- [スペインの時 (L’heure espagnole)] (1911) — 一幕
- [子供と 魔法 (L’enfant et les sortilèges)] (1925) — コレット台本、 家具・動物が 生き返る
編曲
- [ムソルグスキー [展覧会の絵] オーケストラ編曲] (1922) — 元曲より 有名
印象派の 影響
- メシアン、 デュティユー — フランス 20 世紀
- 武満徹 (日本) — 「日本の 印象派」
- ジャズ — 9 の和音、 全音音階
- 映画音楽 — 現代の 「色彩的な 音楽」 の 直系祖先
新ウィーン楽派 — 「無調」 と 「12 音技法」
1900 年代、 ウィーン。 アルノルト・シェーンベルク と 弟子 アルバン・ベルク、 アントン・ヴェーベルン の 3 人組:
「無調」 の 誕生 (1908)
それまでの 500 年の 「調性 (tonality)」 — 長調・短調の体系 — を 意図的に 放棄。 1908 年、 シェーンベルク [3 つのピアノ曲 Op. 11] が 最初の 無調曲。
12 音技法 (Twelve-tone technique) の 発明 (1923)
無調のあと、 シェーンベルクは 1923 年に 12 音技法 を 発明:
- 12 音 (半音階の全音) を 一つの音列 (row/series) として 配列
- 各音は 一巡するまで 反復不可
- 音列を 順行・逆行・反行・逆行反行 で 変形
- 無調音楽の 新しい 秩序 — 「調性」 に代わる 組織化原理
「音楽の 数学化」 — 前シリーズ [数学の系譜] の 20 世紀構造主義と 並行。
アルノルト・シェーンベルク (1874-1951)
ウィーン生まれの ユダヤ系 作曲家。 独学 で 音楽を 学ぶ (前シリーズ [数学の系譜] の ラマヌジャンと 対応)。
生涯
- 1874 年 9 月 13 日 — ウィーンで誕生
- 1900 年頃 — マーラーに 認められる
- 1908 年 — 無調 に転換 ([3 つのピアノ曲 Op. 11]、 [空中庭園の書 Op. 15])
- 1912 年 — [月に憑かれた ピエロ (Pierrot lunaire)] Op. 21 — シュプレヒシュティンメ (話声歌唱) の 発明
- 1923 年 — 12 音技法 の 発明 ([組曲 Op. 25])
- 1933 年 — ナチスから 逃れ、 米国へ亡命 (前シリーズ [数学の系譜] のゲーデルと 同じ運命)
- 1936-1951 年 — UCLA 教授 (ロサンゼルス)
- 1951 年 7 月 13 日 — ロサンゼルスで死去、 76 歳
主要作品
- [浄夜 (Verklärte Nacht)] Op. 4 (1899) — 弦楽六重奏、 後にオーケストラ編曲、 後期ロマン派の傑作
- [グレの歌 (Gurrelieder)] (1911) — 巨大カンタータ、 マーラー的
- [月に憑かれた ピエロ] Op. 21 (1912) — 21 曲、 シュプレヒシュティンメ
- [管弦楽のための 変奏曲] Op. 31 (1928)
- オペラ [モーゼとアロン (Moses und Aron)] (1932、 未完)
「シュプレヒシュティンメ (Sprechstimme)」
[月に憑かれた ピエロ] で 発明された、 「話声と 歌の 中間」 の 発声法。 音高は 決められているが、 通常の 歌唱ではなく 話すように、 音高を 素早く 離れる。 20 世紀の 声楽表現の 新技法。
アルバン・ベルク (1885-1935)
シェーンベルクの 弟子、 より 表現主義的・ロマン派的。 50 歳、 蜂に 刺されて 敗血症で 早世。
主要作品
- [ヴォツェック (Wozzeck)] (1922) — オペラ、 ビュヒナーの戯曲、 無調オペラの 傑作
- [抒情組曲 (Lyrische Suite)] (1926) — 弦楽四重奏、 12 音技法 + 秘密の暗号
- [ヴァイオリン協奏曲 「ある天使の思い出に」] (1935) — マノン・グロピウス (アルマ・マーラーの 娘) の 早世に、 遺作
- オペラ [ルル] (1929-1935、 未完) — 3 幕、 娼婦の 生涯
「表現主義オペラ」
[ヴォツェック] は 貧しい兵士が 妻を刺殺 する 悲劇。 無調と 12 音の 混合、 強烈な感情。 20 世紀オペラの 傑作。
アントン・ヴェーベルン (1883-1945)
シェーンベルクの 弟子、 最も 徹底した 12 音技法。 短い作品 が 中心 (演奏時間 数分の 曲多数)。
生涯
- 1883 年 12 月 3 日 — ウィーンで誕生
- 1904-1908 — シェーンベルクに 師事
- 1920 年代 — 12 音技法を 極限まで 徹底
- 1938 年 — ナチス占領で 「退廃芸術」 として 演奏禁止
- 1945 年 9 月 15 日 — オーストリアで 米軍占領兵に 誤射され死去、 61 歳
主要作品
- [管弦楽のための 6 つの小品] Op. 6 (1909)
- [5 つの管弦楽小品] Op. 10 (1913) — 極めて 短い
- [弦楽四重奏のための 6 つのバガテル] Op. 9 (1913)
- [交響曲] Op. 21 (1928) — 対称形式
- [管弦楽のための 変奏曲] Op. 30 (1940) — 最後のオーケストラ曲
「点描の音楽 (Pointillisme)」
ヴェーベルンの音楽は 極めて 疎、 断片的。 一つ一つの音が 別の楽器から、 短く 鳴る。 「点描画」 の 音楽版。 戦後の 前衛音楽 (ブーレーズ、 シュトックハウゼン) に 決定的影響。
バレエ・リュス — 1913 年 5 月 29 日
1909 年、 セルゲイ・ディアギレフ (1872-1929) が バレエ・リュス (Ballets Russes) を 結成。 パリを 拠点に、 ロシアのダンサー・振付家・作曲家・美術家 を 結集:
- 振付: フォーキン、 ニジンスキー、 マシーン、 バランシン
- ダンサー: ニジンスキー、 パヴロワ、 カルサヴィナ
- 作曲: ストラヴィンスキー、 ラヴェル、 ドビュッシー、 サティ、 プロコフィエフ
- 美術: ピカソ、 マティス、 コクトー、 ゴンチャロワ
「20 世紀の 総合芸術」 としての バレエ・リュス。
1913 年 5 月 29 日 — [春の祭典] 初演
パリ・シャンゼリゼ劇場、 イーゴリ・ストラヴィンスキー [春の祭典 (Le sacre du printemps)]、 ニジンスキー振付。
演奏開始から 観客が 大騒動:
- 原始的リズム、 不協和音、 変拍子
- ニジンスキーの 「醜い」 振付 (内向きの足、 反古典的)
- 前列の 貴族客と 上階の 若者が 激論、 殴り合い
- 警察が 出動
「音楽史上 最大のスキャンダル」 。 だが 翌年 演奏会形式で 再演すると 絶賛。 20 世紀音楽の 幕開け の 象徴的瞬間。
イーゴリ・ストラヴィンスキー (1882-1971)
ロシア・オラニエンバウム (現ロモノーソフ) 生まれ。 リムスキー=コルサコフ (五人組、 前記事) の 弟子。 89 歳長寿、 3 つの 作曲期:
ロシア期 (1909-1919)
- [火の鳥] (1910) — バレエ・リュス デビュー
- [ペトルーシュカ] (1911) — バレエ、 パリの縁日
- [春の祭典] (1913) — バレエ、 大暴動
新古典主義期 (1920-1954)
- [プルチネッラ] (1920) — ペルゴレージ主題によるバレエ
- [詩篇交響曲 (Symphony of Psalms)] (1930)
- オペラ [放蕩者の遍歴 (The Rake’s Progress)] (1951) — オーデン台本、 モーツァルト的
12 音期 (1954-1968)
- 晩年 シェーンベルク流の 12 音技法 に 転向
- [アゴン] (1957)、 [レクイエム・カンティクルズ] (1965-1966)
「20 世紀最大の カメレオン作曲家」 — 常に 様式を 変え続けた。
亡命
- 1917 年 ロシア革命 — スイス→フランス
- 1939 年 第 2 次大戦 — 米国 (ハーバードで 講義、 [音楽の詩学])
- 1945 年 米国市民権
- 1971 年 4 月 6 日 — ニューヨークで死去、 ヴェネツィアに 埋葬 (バレエ・リュスの ディアギレフの 隣)
その他の 20 世紀初頭作曲家
ベーラ・バルトーク (1881-1945)
ハンガリー、 民族音楽学者 兼 作曲家。 民謡採集 (蓄音機で 東欧・アジアの民謡を 録音・分析) → 芸術音楽への 昇華:
- [中国の不思議な役人 (The Miraculous Mandarin)] (1919) — バレエ、 極めて 暴力的
- [管弦楽のための 協奏曲] (1943) — 米亡命中
- [6 つの弦楽四重奏] (1908-1939) — 20 世紀室内楽の 頂点
- [ミクロコスモス] (1926-1939) — ピアノ教材、 現代ピアノ教育の 定番
- [ピアノ協奏曲 3 曲]
ゾルターン・コダーイ (1882-1967)
ハンガリー、 バルトークと 共同で 民謡採集。 音楽教育法 (コダーイ・メソッド) で 世界的:
- [ハーリ・ヤーノシュ組曲] (1926)
- [ガランタ舞曲] (1933)
レオシュ・ヤナーチェク (1854-1928)
チェコ、 「話声の 音楽化」 。 遅咲きの天才:
- オペラ [イェヌーファ] (1904)
- [シンフォニエッタ] (1926)
- [消えた男の日記]、 [利口な女狐の物語]
チャールズ・アイヴズ (1874-1954)
米国コネチカット、 保険業者 兼 作曲家。 前衛的、 独自の音楽:
- [答えのない問い (The Unanswered Question)] (1908)
- [コンコード・ソナタ] — ピアノ
「シェーンベルク vs ストラヴィンスキー」
20 世紀の 音楽界は 2 派に分裂:
シェーンベルク派 (ドイツ・オーストリア)
- 無調・12 音技法
- 音楽の 数学的組織化
- 拠点: ウィーン → 米国 (亡命)
ストラヴィンスキー派 (ロシア・フランス・米国)
- リズム・新古典主義・多様な様式
- 音楽の 「表面」 の 探求
- 拠点: パリ → 米国
フランスの 「ブーレーズ vs ミヨー」 の 対立と 対応。 現代の 音楽は 両派を 統合した 潮流。
20 世紀音楽の 「難解さ」
無調・12 音技法 は 一般聴衆に 極めて 難解:
- 調性の 「解決感」 が ない
- メロディーが 記憶しにくい
- 不協和音の 連続
現代でも 無調・12 音音楽は 一般には 普及していない。 だが 映画音楽・ゲーム音楽・現代芸術音楽 の中で 断片的に 使われる (「恐怖」 「緊張」 の 表現)。
現代への 影響
印象派
- ジャズ和声、 映画音楽、 現代日本音楽 (武満徹、 坂本龍一)
- 和声学の 教科書に 定着
- ドビュッシー [月の光] は 世界で最も演奏される ピアノ曲
新ウィーン楽派
- 戦後の 前衛音楽 (ブーレーズ、 シュトックハウゼン、 リゲティ)
- セリアル音楽 (音列音楽)
- 電子音楽への 発展
バレエ・リュス
- [春の祭典] は 20 世紀オーケストラの 標準レパートリー
- 現代バレエの 直接祖先
- ディアギレフ的 「総合芸術」 の モデル
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