冬の季語 — 立冬から大晦日までの 150 語
旧暦の立冬 (11 月 8 日頃) から立春 (2 月 4 日頃) までの 3 ヶ月間を範囲とする冬の季語。 時候 (立冬・小寒・大寒)、天文 (雪・氷・寒風)、地理 (枯野・冬の水)、生活 (炬燵・鍋・餅つき)、行事 (大晦日・除夜・元日直前)、動物 (鶴・冬鳥・鮟鱇)、植物 (山茶花・寒椿・水仙) の 7 分類で、 冬の 150 語を代表句とともに辿る。
冬の範囲と本意
冬 (ふゆ) の季節範囲は、 立冬 (11 月 8 日頃) から立春 (2 月 4 日頃) までの約 3 ヶ月。 現代の新暦感覚では「冬」 は 12-2 月だが、 俳句では 11 月上旬から冬に入る。
冬の本意は 「静寂」 と「内向」:
- 万物が凍り、 音が消える季節
- 「寒さ」 と「暖」 の対比 (炬燵・鍋・炭火) が季感の中核
- 「凍った」 「白い」 「沈黙」 — 冬は引き算の美学 の季節
冬の季語は他の季節と比べても 「命の内向」 を強く帯びる。 一茶・芭蕉の名句が集中する季節でもある。
1. 時候 — 冬の時間の言葉
初冬 (11 月-12 月上旬)
- 立冬 (りっとう) — 11 月 8 日頃、 冬の始まり
- 初冬 (しょとう)
- 冬近し (秋の季語との対)
- 冬めく — 冬らしくなる
- 小春 (こはる) — 立冬前後の暖かい日
- 小春日和 (こはるびより)
仲冬 (12 月中旬-1 月上旬)
- 師走 (しわす) — 旧暦 12 月
- 冬至 (とうじ) — 12 月 22 日頃、 昼の最短
- 短日 (たんじつ) — 冬至前後の短い昼
- 数へ日 (かぞえび) — 年末の残り日を数える
- 年の暮 (としのくれ) — 年末
- 年の瀬 (としのせ)
晩冬 (1 月中旬-2 月上旬)
- 小寒 (しょうかん) — 1 月 5 日頃
- 大寒 (だいかん) — 1 月 20 日頃、 一年で最も寒い時期
- 寒 (かん) — 小寒〜立春の 30 日間
- 寒の入り
- 寒の内
- 寒明け — 立春
- 晩冬
- 春近し — 立春に近い
冬全般
- 寒し (さむし) — 冬の寒さ
- 冷たし
- 凍る (こおる) — 凍結
代表句
- 芭蕉「旅に病んで 夢は枯野を かけ廻る」 — 芭蕉の辞世、 大阪冬 (旧暦 10 月末、 現代 11 月末)
- 芭蕉「冬の日や 馬上に凍る 影法師」 — 冬の日、 旅
- 一茶「これがまあ ついの棲家か 雪五尺」 — 冬の生活
2. 天文 — 冬の空と気象
空・雲
- 冬の月 — 冷たい冬の月
- 冬の空 — 澄んだ冬の空
- 冬の星 — 冬の澄んだ星
- オリオン — 冬の代表的な星座 (現代)
- 冴ゆ (さゆ) — 冷え澄む
- 冴ゆる月
雪・霜
- 雪 (ゆき) — 冬の代表
- 初雪 (はつゆき) — 初めての雪
- 粉雪 (こなゆき)
- 牡丹雪 (ぼたんゆき) — 大きな雪片
- 雪明り (ゆきあかり) — 雪の反射光
- 雪見
- 雪掻き
- 雪達磨 (ゆきだるま) — 現代の生活
- 氷 (こおり)
- 氷柱 (つらら)
- 薄氷 (うすらい) — (春先の薄氷とは違う、 冬の薄い氷)
- 凍る
- 霜 (しも) — 冬の霜
- 霜柱 (しもばしら)
- 霜夜 (しもよ)
- 霜月 (しもつき) — 旧暦 11 月
雨・風
- 時雨 (しぐれ) — 初冬〜冬の一時的な雨
- 冬の雨
- 氷雨 (ひさめ) — 冬の冷たい雨
- 木枯 (こがらし) / 木枯し — 冬の強い北風
- 寒風 (かんぷう)
- 北風 (きたかぜ)
- 空風 (からかぜ) — 乾燥した冬の風
- 山颪 (やまおろし) — 山から吹き下ろす冬風
代表句
- 芭蕉「山路来て 何やらゆかし すみれ草」 の対比冬句 = 芭蕉「かれ枝に 烏のとまりけり 秋の暮」 — 秋の暮とも冬とも
- 一茶「うつくしや 障子の穴の 天の川」 の冬版 = 冬の月と障子
- 虚子「凍蝶の 己が魂追ふ ごとくなり」 — 凍蝶
3. 地理 — 冬の風景
- 枯野 (かれの) — 冬の枯れた野原
- 冬野
- 冬の川 — 冬の川
- 冬の海 — 冬の荒海
- 冬の水 — 冬の澄んだ水
- 山眠る (やまねむる) — 冬の静かな山
- 冬の山
- 雪山
- 雪原 (せつげん)
- 凍土 (とうど)
- 氷湖 (ひょうこ) — 凍った湖
- 冬田 (ふゆた) — 稲刈後の冬の田
代表句
- 芭蕉「旅に病んで 夢は枯野を かけ廻る」 — 枯野の代表句
- 虚子「遠山に 日の当りたる 枯野かな」 — 枯野の名句
- 蕪村「凩や 何に世わたる 家五軒」 — 木枯と家
4. 生活 — 冬の暮らし
暖房・寒さ対策
- 炬燵 (こたつ) — 冬の代表的な暖房
- 火鉢 (ひばち)
- 炭 (すみ)
- 炭火
- 炉 (ろ) — 囲炉裏
- 囲炉裏 (いろり)
- 暖房
- ストーブ
- セーター — 現代
- マフラー
- 手袋
- 懐炉 (かいろ)
- 綿入 (わたいれ) — 綿入りの着物
- 蒲団 (ふとん)
- 湯たんぽ
食
- 鍋 (なべ) — 冬の食
- 雑炊
- 鮟鱇鍋 (あんこうなべ)
- 鰤 (ぶり)
- 牡蠣 (かき)
- 餅 (もち)
- 餅つき (もちつき) — 年末
- 雑煮 (ぞうに) — 年始 (新年の季語との境界)
- 鰤大根
- 葱 (ねぎ) — 冬の
- 大根 (だいこん) — 冬の
- 蕪 (かぶ)
- 白菜 (はくさい)
- 蕎麦 (そば) — 冬蕎麦、 特に年越蕎麦
湯・入浴
- 湯 (ゆ) — 冬の温泉
- 温泉
- 柚子湯 (ゆずゆ) — 冬至の柚子湯
冬の労働
- 冬耕 (とうこう) — 冬の耕し
- 炭焼 (すみやき) — 冬の炭焼き
- 雪掻
代表句
- 芭蕉「初雪や 幸ひ庵に まかり有る」 — 初雪の庵の生活
- 一茶「これがまあ ついの棲家か 雪五尺」 — 雪の生活
- 蕪村「炬燵よし 世を忘るるも 世に居るも」 — 炬燵
5. 行事 — 冬の祭
11 月-12 月
- 七五三 (11 月 15 日) — (実は秋の季語だが、 現代では冬近く)
- 勤労感謝の日 (11 月 23 日、 現代)
- お歳暮 (おせいぼ) — 年末の贈答
- 年賀状書き
- 煤払 (すすはらい) — 年末の大掃除
- 煤竹
- 年木 (としぎ) — 年末に薪を用意
- 餅つき
- 注連飾 (しめかざり) — 年末の飾り作り
- 冬至の柚子湯 / 南瓜
- クリスマス — 現代
- 年の市 (としのいち) — 年末の市場
12 月末-1 月上旬 (新年の境界)
- 大晦日 (おおみそか) — 12 月 31 日
- 除夜 (じょや) — 大晦日の夜
- 除夜の鐘 (じょやのかね)
- 年越蕎麦
1 月-2 月
- 寒中見舞
- 節分 (せつぶん) — 2 月 3 日、 立春の前日
- 豆撒 (まめまき)
- 鬼やらい
- 恵方巻 — 現代
- 雪祭 — 現代
代表句
- 芭蕉「餅を夢に 折り結びけり 松かづら」 — 餅の夢
- 虚子「凍蝶の 己が魂追ふ ごとくなり」 — 凍蝶 (実は冬の動物)
6. 動物 — 冬の生きもの
鳥
- 鶴 (つる) — 冬の代表鳥、 北から渡ってくる
- 鴨 (かも) — 冬の水鳥
- 鴛鴦 (おしどり)
- 白鳥 (はくちょう)
- 鷹 (たか) — 冬の狩
- 鷲 (わし)
- 雁 (かり) — 秋渡来だが、 冬にも
- 千鳥 (ちどり)
- 鴫 (しぎ) — 冬にも
- 鴉 (からす) — 冬に目立つ
- 雀 (すずめ) — ふくら雀
- 梟 (ふくろう) — 冬夜
- 寒禽 (かんきん) — 冬の鳥の総称
魚
- 鮟鱇 (あんこう) — 冬の魚、 鮟鱇鍋
- 鰤 (ぶり)
- 鱈 (たら)
- 鰊 (にしん)
- 牡蠣 (かき) — 冬の貝
- 鰤起し (ぶりおこし) — 冬の雷 (北陸)
昆虫
- 凍蝶 (いてちょう) — 冬に凍って動かない蝶
- 綿虫 (わたむし) — 冬の白い虫、 雪虫
- 雪虫
- 冬の蝿
獣
- 狸 (たぬき) — 冬
- 狐 (きつね) — 冬
- 兎 (うさぎ) — 冬
- 鼬 (いたち)
- 熊 (くま) — 冬眠へ入る
- 獣狩 (じゅうがり) — 冬の狩り
代表句
- 芭蕉「海くれて 鴨の声 ほのかに白し」 — 冬の海と鴨
- 虚子「白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ」 — (若山牧水の短歌だが、 白鳥は冬)
- 虚子「凍蝶の 己が魂追ふ ごとくなり」
7. 植物 — 冬の花と草木
冬の花
- 山茶花 (さざんか) — 11-12 月の花
- 寒椿 (かんつばき) — 冬の椿
- 茶の花 (ちゃのはな) — 晩秋〜初冬
- 水仙 (すいせん) — 冬〜早春
- 臘梅 (ろうばい) — 12-1 月
- 梅 — (実は春の季語だが、 早咲きは冬)
- 葉牡丹 (はぼたん) — 冬の観賞植物
冬芽・冬木
- 冬芽 (ふゆめ) — 冬の休眠芽
- 冬木立 (ふゆこだち) — 冬の木々
- 裸木 (らぼく) / 冬木
- 枯木 (かれき)
- 落葉 (らくよう) — 冬の落葉
- 枯葉
- 枯枝
- 枯芝
- 枯尾花
- 枯芦
- 枯芒
常緑
- 松 (まつ) — 常緑、 冬に目立つ
- 杉
- 檜
- 柊 (ひいらぎ) — 冬の魔除け、 節分
- 千両 (せんりょう) — 冬の実 (お正月飾り)
- 万両 (まんりょう)
- 南天 (なんてん) — 冬の赤い実
果物・食用
- 蜜柑 (みかん) — 冬の代表果物
- 柚子 — 冬の柚子湯
- 林檎 — 秋から冬にも
- 大根 (だいこん) — 冬の野菜
- 蕪 (かぶ)
- 白菜
- 葱 (ねぎ)
- 牛蒡 (ごぼう)
- 人参
代表句
- 虚子「大寒の 埃の如く 人死ぬや」 — 大寒
- 芭蕉「冬牡丹 千鳥よ雪の ほととぎす」 — 冬牡丹 (実は冬の花として詠まれる)
- 蕪村「寒月や 松の間より 遠くの海」 — 寒月と松
冬の季感の変化
現代の 11 月 8 日 (立冬) は、 実感としてはまだ晩秋。 紅葉が盛りの土地も多く、 「冬」 とは呼びづらい。 現代の 2 月 4 日 (立春) は、 実感としてはまだ真冬。 立春を境にすぐ暖かくなるわけではない。
このため現代の冬俳句は:
- 11 月上-中旬: 「初冬」 「立冬」 「小春」 と詠む
- 12 月-1 月中旬: 「真冬」 「寒」 「冬深し」
- 1 月下旬-2 月上旬: 「大寒」 「寒明け」 「春近し」
冬の季感は、 都市化の影響を最も受けている。 昔の東京・大阪では雪が積もったが、 現代では稀。 「冬」 の季感は温暖化と都市化で、 過去の名句が想定する景から大きくずれてきている。
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冬の 3 ヶ月の最後 (1 月上旬-2 月上旬) には、 新年 — 1 月 1 日から 1 月上旬 — が独立した季節として置かれる。 春夏秋冬とは別枠の 「祝の季節」。 次の (そしてこのシリーズの最終) 記事では、 新年の季語 — 初日・門松・お雑煮・書初・七草・鏡開き — の世界に入る。 冬でありながら冬でない、 日本人の 1 年の 折り返しの区切り。