秋の季語 — 立秋から冬近しまでの 150 語
旧暦の立秋 (8 月 8 日頃) から立冬 (11 月 8 日頃) までの 3 ヶ月間を範囲とする秋の季語。 時候 (立秋・秋の夜長・晩秋)、天文 (月・天の川・野分)、地理 (紅葉・花野・秋の水)、生活 (稲刈・新米・夜長の灯)、行事 (七夕・盆・十五夜)、動物 (蜻蛉・雁・秋刀魚)、植物 (菊・コスモス・柿・紅葉) の 7 分類で、 秋の 150 語を代表句とともに辿る。
秋の範囲と本意
秋 (あき) の季節範囲は、 立秋 (8 月 8 日頃) から立冬 (11 月 8 日頃) までの約 3 ヶ月。 現代の新暦感覚では「秋らしい秋」 は 10-11 月だが、 俳句では 8 月上旬から秋に入る。
秋の本意は 「澄み」 と「物思い」:
- 夏の暑さと勢いが引き、 空気が澄む
- 月・虫の声・紅葉 — 静かで深い情感が広がる
- 収穫と豊穣、 同時に過ぎ去るものへの寂寞
秋は俳諧が最も内省的な情感 を持つ季節で、 春と並んで名句が多い。
1. 時候 — 秋の時間の言葉
初秋 (8 月-9 月上旬)
- 立秋 (りっしゅう) — 8 月 8 日頃、 秋の始まり
- 残暑 (ざんしょ) — 立秋後も残る暑さ
- 秋暑し — 秋なのに暑い
- 秋涼し
- 新涼 (しんりょう) — 秋の始めの涼しさ
- 初秋
仲秋 (9 月中旬-10 月上旬)
- 秋分 (しゅうぶん) — 9 月 23 日頃
- 彼岸 (ひがん) — 秋彼岸 (秋分の日を挟む 7 日間)
- 中秋 — 旧暦 8 月 15 日 (現代の 9 月中旬)
- 仲秋
- 秋の暮 — 秋の日の夕暮
晩秋 (10 月中旬-11 月上旬)
- 晩秋
- 暮の秋 (くれのあき) — 秋の終わり
- 行秋 (ゆくあき) — 過ぎ去る秋
- 秋深し
- 秋惜しむ
- 冷 (ひえ) — 秋の冷え
- 朝寒 (あささむ) — 秋の朝の寒さ
- 夜寒 (よさむ) — 秋の夜の寒さ
- 冬近し — 秋の終わり、 冬に近い
秋全般
- 秋の夜長 — 夜が長くなる
- 長き夜 (ながきよ)
- 爽やか (さわやか) — 秋の澄んだ空気
代表句
- 芭蕉「秋深き 隣は何を する人ぞ」 — 秋深しの代表句
- 芭蕉「この道や 行く人なしに 秋の暮」 — 秋の暮
2. 天文 — 秋の空と気象
空・雲
- 秋の空 — 高く澄んだ秋の空
- 鰯雲 (いわしぐも) — 秋の空の雲
- 秋の雲
- 月 (つき) — 単独で「月」 と言えば秋の月
- 名月 (めいげつ) — 中秋の名月 (旧暦 8 月 15 日)
- 十五夜
- 十六夜 (いざよい) — 中秋の翌日の月
- 立待月 (たちまちづき) — 17 日の月
- 居待月 (いまちづき) — 18 日の月
- 寝待月 (ねまちづき) — 19 日の月
- 月見
- 月見酒
- 月代 (つきしろ) — 月の光
- 月暈 (つきかさ) — 月の周りの光の輪
- 天の川 — 秋の澄んだ夜空 (旧暦の七夕は初秋)
- 流星
雨・風
- 秋の雨 — 秋の雨
- 秋雨 (あきさめ)
- 秋時雨 (あきしぐれ) — 秋の時雨
- 野分 (のわき) — 秋の台風・強風
- 台風 (たいふう) — 現代語
- 秋風 (あきかぜ)
代表句
- 芭蕉「名月や 池をめぐりて 夜もすがら」 — 名月の代表句
- 芭蕉「秋深し 隣は何を する人ぞ」
- 蕪村「五月雨や 大河を前に 家二軒」 の対比の秋句 = 蕪村「野分吹く 蕎麦のけしきも 明けて日か」
3. 地理 — 秋の風景
- 秋の水 — 澄んだ秋の水
- 秋の川
- 水澄む (みずすむ) — 秋の澄んだ水
- 秋の海
- 紅葉 (もみじ / こうよう) — 秋の代表景
- 紅葉狩 (もみじがり) — 紅葉を見る
- 枯葉 / 落葉 (らくよう) — (「落葉」 は本来冬の季語だが 晩秋にも使う)
- 花野 (はなの) — 秋の草花が咲く野
- 山粧ふ (やまよそおう) — 秋の紅葉の山
代表句
- 芭蕉「石山の 石より白し 秋の風」 — 石山の秋
- 芭蕉「岩鼻や ここにもひとり 月の客」 — (去来の句) 岩と月
4. 生活 — 秋の暮らし
農作業
- 稲刈 (いねかり) — 9-10 月の収穫
- 新米 (しんまい) — 秋の新米
- 稲干 (いねぼし) — 稲を干す
- 案山子 (かかし) — 田の見張り
- 稲架 (はさ) — 稲を干す木組み
- 鎌 (かま) — 稲刈の道具
- 豊年 (ほうねん) — 豊作の年
- 凶年
- 秋耕 (しゅうこう) — 秋の耕し
収穫の食
- 新米
- 新酒 (しんしゅ) — 秋の新酒
- 茸 (きのこ) — 松茸・椎茸ら
- 松茸 (まつたけ)
- 柿 (かき) — 秋の果物
- 栗 (くり)
- 梨 (なし)
- 葡萄 (ぶどう)
- 林檎 (りんご)
- 無花果 (いちじく)
- 秋刀魚 (さんま) — 秋の魚
生活の変わり目
- 夜長 — 夜が長くなる
- 灯火親しむ — 秋の夜長に本を読む
- 秋の灯 (あきのひ)
- 障子貼 (春も) — 秋にも障子を貼り替える
- 炉開 (ろびらき) — 茶道の炉を開く (11 月)
衣服
- 袷 (あわせ) — 春秋の裏付き着物
- 単衣仕舞 — 夏の着物を仕舞う
代表句
- 一茶「うつくしや 障子の穴の 天の川」 — 障子と天の川
5. 行事 — 秋の祭
- 七夕 (たなばた) — 旧暦 7 月 7 日 (現代の 8 月中旬)、 初秋
- お盆 (盂蘭盆) — 8 月中旬 (旧盆) や 7 月中旬 (新盆)
- 迎火・送火 (むかえび・おくりび) — 盆の火
- 精霊流 (しょうりょうながし)
- 地蔵盆 — 京都の 8 月
- 十五夜 (中秋の名月) — 旧暦 8 月 15 日
- 月見
- 虫聞き — 秋の虫の声を聞きに行く
- 秋祭
- 敬老の日 — 9 月 (現代)
- 体育の日 — 10 月 (現代、 スポーツの日に改称)
- 秋の 灯篭祭 (とうろうまつり)
- 重陽 (ちょうよう) — 旧暦 9 月 9 日、 菊の節句
- 十三夜 (じゅうさんや) — 旧暦 9 月 13 日、 後の月見
- 紅葉狩
- 七五三 — 11 月 15 日
- 文化の日 — 11 月 3 日 (現代)
代表句
- 芭蕉「盆過て うら盆きたる 藪の中」 — 盆
- 芭蕉「見送りに 立たされ果て たる山かな」 — 送り火の帰り
6. 動物 — 秋の生きもの
昆虫 (「虫」 は秋の総称)
- 虫 (むし) — 秋の虫総称、 特に鳴く虫
- 虫の声
- 鈴虫 (すずむし)
- 松虫 (まつむし)
- こおろぎ
- きりぎりす
- 蟋蟀 (こおろぎ、 きりぎりすの古称)
- 蜻蛉 (とんぼ) — 本格の秋の蜻蛉
- 赤とんぼ
- 秋の蝉 — 蝉の中でも晩夏〜初秋の
- 法師蝉 (ほうしぜみ) — 立秋前後
- 蟷螂 (かまきり)
- 蛾 (が) — 秋の蛾
鳥
- 雁 (かり / がん) — 秋に北から渡ってくる
- 鴫 (しぎ) — 秋の水辺の鳥
- 啄木鳥 (きつつき) — 秋
- ひばり — (実は春だが晩秋にも)
- 鶫 (つぐみ)
- 鶉 (うずら) — 秋
魚
- 秋刀魚 (さんま) — 秋の代表魚
- 鮭 (さけ) — 秋
- 鰍 (かじか)
- どぜう — どじょう
その他
- 落し文 (おとしぶみ) — 蛾類が葉を巻いたもの、 秋の景物
- 鹿 (しか) — 秋の鳴き声 (「小倉山 峰のもみじば」 の百人一首)
- 鹿の声
代表句
- 芭蕉「秋深き 隣は何を する人ぞ」 — (人の音、 虫の音の背景)
- 芭蕉「大井川 波に塵なし 夏の月」 の対比句 = 芭蕉「稲妻や 闇の方行く 五位の声」 — 五位鷺 (実は夏の季語)
- 蕪村「白露や 茨の刺に ひとつづつ」 — 白露
7. 植物 — 秋の花と草
秋の七草
- 萩 (はぎ) — 秋の代表花
- 薄 (すすき) / 尾花 (おばな) — 秋の野の代表
- 葛 (くず)
- 撫子 (なでしこ)
- 女郎花 (おみなえし)
- 藤袴 (ふじばかま)
- 桔梗 (ききょう)
秋の花
- 菊 (きく) — 秋の代表花、 重陽の節句
- 白菊、 黄菊、 大輪菊
- コスモス — 秋の代表花 (明治以降の外来)
- 秋桜 (コスモスの当て字)
- 秋海棠 (しゅうかいどう)
- 彼岸花 (ひがんばな) / 曼珠沙華 (まんじゅしゃげ) — 9 月
- 鶏頭 (けいとう)
- 朝顔 (あさがお) — 実は秋の季語 (旧暦の初秋の花)
- 夕顔 — 実は夏
- 芙蓉 (ふよう)
果物・食用の植物
- 柿 (かき) — 秋の代表果物
- 栗 (くり)
- 葡萄 (ぶどう)
- 梨 (なし)
- 林檎 (りんご)
- 蜜柑 (みかん) — 晩秋
- 柚子 (ゆず) — 秋の香りの実
- 石榴 (ざくろ) — 秋の実
- 無花果 (いちじく)
紅葉と落葉
- 紅葉 (もみじ / こうよう) — 秋の代表景
- 黄葉 (こうよう)
- 紅葉且つ散る (もみじかつちる)
- 銀杏 (いちょう) — 秋の黄葉
- 銀杏散る
- 紅葉狩
野の草
- 稲 (いね) — 稲田
- 蕎麦の花 (そばのはな)
- 芒 (すすき)
- 枯芝 — 秋の始めの草枯
代表句
- 芭蕉「野ざらしを 心に風の しむ身かな」 — 秋の風 (『野ざらし紀行』)
- 蕪村「秋の空 露をためたる 青さかな」 — 秋の空
- 一茶「露の世は 露の世ながら さりながら」 — 露 (子の死を悼む)
- 虚子「桐一葉 日当りながら 落ちにけり」 — 桐一葉 (秋)
秋の季感の変化
現代の 8 月 8 日 (立秋) は、 実感としては盛夏のなか。 8 月末から 9 月上旬になってようやく朝夕が涼しくなる。 現代の 11 月 8 日 (立冬) 頃は、 まだ十分秋の情感を保っている土地も多い。
現代の俳人は:
- 8 月上-中旬: 「残暑」 「秋暑し」 として詠む
- 9 月: 「初秋」 「新涼」
- 10 月: 「秋深し」 「紅葉」
- 11 月: 「晩秋」 「冬近し」 「木枯し (冬)」
秋は現代でも比較的、 歳時記と実感のズレが少ない季節。 春・夏に比べると、 温暖化の影響で秋が「短く」 なっている問題が指摘されている。
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澄んだ秋から、 静まる冬へ。 次の記事では、 冬の季語 — 雪・木枯し・炬燵・冬の月・大晦日・寒椿 — の世界に入る。 冬は最も沈黙と内向 の季節で、 芭蕉・一茶の名句が集中する。