夏の季語 — 立夏から夕焼までの 150 語
旧暦の立夏 (5 月 5 日頃) から立秋 (8 月 8 日頃) までの 3 ヶ月間を範囲とする夏の季語。 時候 (立夏・涼し・大暑)、天文 (五月雨・雷・夕立)、地理 (夏の海・青田)、生活 (田植・冷奴・浴衣)、行事 (端午・七夕・お盆)、動物 (蝉・鮎・蚊)、植物 (万緑・向日葵・百合) の 7 分類で、 夏の 150 語を代表句とともに辿る。
夏の範囲と本意
夏 (なつ) の季節範囲は、 立夏 (5 月 5 日頃) から立秋 (8 月 8 日頃) までの約 3 ヶ月。 現代の新暦感覚では「盛夏」 は 7-8 月だが、 俳句では 5 月からすでに夏に入る。
夏の本意は 「勢い」 と「開放」:
- 万物が生い茂り、 熱と光が満ちる季節
- 「涼し」 「暑し」 「静けさ」 「音」 の対比が季感の中核
- 蝉声・雷・夕立・浴衣・盆踊 — 夏は音と光と身体 の季節
以下、 夏の代表的な 150 語を歳時記の 7 分類の順に整理する。
1. 時候 — 夏の時間の言葉
初夏 (5-6 月上旬)
- 立夏 (りっか) — 5 月 5 日頃、 夏の始まり
- 薄暑 (はくしょ) — 初夏の軽い暑さ
- 初夏 (しょか)
- 麦の秋 (むぎのあき) — 麦が実る初夏
仲夏 (6 月中旬-7 月上旬)
- 梅雨 (つゆ) — 6-7 月の長雨
- 夏至 (げし) — 6 月 21 日頃、 昼の最長
- 短夜 (みじかよ) — 夏至前後の短い夜
- 五月晴 (さつきばれ) — 梅雨の合間の晴れ
- 仲夏
晩夏 (7 月中旬-8 月上旬)
- 大暑 (たいしょ) — 7 月 23 日頃
- 炎暑 (えんしょ) — 炎のような暑さ
- 土用 (どよう) — 立秋前 18 日間、 夏の最後
- 土用波 (どようなみ) — 土用の海の波
- 晩夏
- 秋近し — 夏の終わり、 秋に近い
夏全般
- 涼し (すずし) — 夏の涼しさ
- 暑し (あつし) — 夏の暑さ
- 汗
代表句
- 芭蕉「夏草や 兵どもが 夢の跡」 — 平泉の夏
- 芭蕉「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」 — 立石寺の夏
- 蕪村「五月雨や 大河を前に 家二軒」 — 五月雨の代表句
2. 天文 — 夏の空と気象
空・雲
- 夏の月 — 短い夏の夜の月
- 夏の空 — 高く青い夏の空
- 夏の雲 — 入道雲、 積乱雲
- 雲の峰 (くものみね) — 積乱雲の峰
- 入道雲
- 朝焼
- 夕焼 (ゆうやけ) — 夏の激しい夕焼
雨・雷
- 五月雨 (さみだれ) — 旧暦 5 月の長雨 (現代の梅雨に相当)
- 梅雨 (現代語)
- 梅雨明
- 夕立 (ゆうだち) — 夏の午後の激しい雨
- 雷 (かみなり) — 夏の雷
- 雷雨
- 稲光 (いなびかり) — 雷光
- 虹 (にじ)
- 五月晴 — 梅雨の晴間
風
- 風薫る — 若葉の香りを運ぶ風
- 青嵐 (あおあらし) — 初夏の風
- 薫風 (くんぷう)
- 南風 (みなみかぜ・はえ) — 夏の南風
代表句
- 芭蕉「五月雨を あつめて早し 最上川」 — 五月雨の代表句
- 蕪村「夕立や 草葉をつかむ むら雀」 — 夕立
- 一茶「雲の峰 いくつ崩れて 月の山」 — (実は違う俳人の) 入道雲
3. 地理 — 夏の風景
- 夏の海 — 夏のおだやかな海
- 夏の川 — 夏の川
- 青田 (あおた) — 稲が青く育つ田
- 田水沸く — 夏の田の水
- 氷室 (ひむろ) — 氷を貯める部屋
- 滝 (たき) — 夏の滝
- 滝の音
- 清水 (しみず) — 夏の湧き水
- 泉 (いずみ)
- 水中花 — 水に浸した造花
- 打ち水
代表句
- 芭蕉「涼しさや ほの三日月の 羽黒山」 — 羽黒山の夏
- 蕪村「涼しさや 鐘をはなるる 鐘の声」 — 涼しさ
4. 生活 — 夏の暮らし
農作業
- 田植 (たうえ) — 6 月頃
- 早苗 (さなえ) — 田植の苗
- 田水張る — 田に水を張る
- 麦刈 (むぎかり) — 麦の収穫
- 鮎汲み — 鮎を捕る
涼を求める
- 涼み — 涼を取る
- 納涼 (のうりょう) — 涼を求めて外に出る
- 打ち水
- 団扇 (うちわ)
- 扇 (おうぎ)
- 蚊帳 (かや) — 夏の寝具
- 簾 (すだれ)
- 風鈴 (ふうりん)
食
- 冷奴 (ひややっこ) — 夏の食
- 冷麦 (ひやむぎ)
- 素麺 (そうめん)
- 鰻 (うなぎ) — 土用の丑
- かき氷
- 氷 (こおり)
- 心太 (ところてん)
- 麦酒 (ビール)
- 梅酒
衣服
- 浴衣 (ゆかた) — 夏の着物
- 単衣 (ひとえ) — 裏なしの着物
- サングラス — 現代の夏の季語
- 麦藁帽子 — 夏の帽子
その他
- 夏休み — 現代の夏の生活
- プール — 現代の季語
- 海水浴
- キャンプ
代表句
- 芭蕉「面白うて やがて悲しき 鵜舟かな」 — 鵜飼 (夏)
- 一茶「涼しさや 天守 (てんしゅ) の下の 我が家」 — 涼しさの生活
- 虚子「川を見る バナナの皮は 手より落つ」 — バナナ (夏)
5. 行事 — 夏の祭
- 端午 (たんご) — 5 月 5 日、 男児の節句
- 鯉幟 (こいのぼり)
- 菖蒲湯 (しょうぶゆ) — 端午に浸かる
- 柏餅 — 端午の菓子
- 粽 (ちまき)
- 母の日 — 5 月第 2 日曜
- 葵祭 (あおいまつり) — 京都の 5 月の祭
- 蛍狩 (ほたるがり) — 6 月頃
- 祇園祭 (ぎおんまつり) — 京都の 7 月の祭
- 天神祭 (てんじんまつり) — 大阪の 7 月の祭
- 七夕 (たなばた) — 7 月 7 日 (現代)、 旧暦では初秋
- お盆 (盂蘭盆) — 8 月中旬
- 盆踊 (ぼんおどり)
- 精霊流し (しょうりょうながし)
- 土用の丑
- 父の日 — 6 月第 3 日曜 (現代)
代表句
- 芭蕉「五月雨の 降り残してや 光堂」 — 平泉の光堂 (五月雨と行事)
6. 動物 — 夏の生きもの
昆虫
- 蝉 (せみ) — 夏の代表虫
- 油蝉 (あぶらぜみ)
- みんみん蝉
- 法師蝉 (ほうしぜみ)
- ひぐらし
- 蚊 (か) — 夏の虫
- 蚊柱 (かばしら)
- 蚊遣 (かやり) — 蚊を追い払う煙
- 蛍 (ほたる) — 6 月頃
- 蜘蛛 (くも)
- 蟻 (あり)
- 蜻蛉 (とんぼ) — (初夏の若い蜻蛉、 秋は本格)
- 蝸牛 (かたつむり) — 梅雨頃
魚
- 鮎 (あゆ) — 夏の魚
- 鰻 (うなぎ)
- 金魚 (きんぎょ)
- 鮒 (ふな)
- 鮟鱇 (あんこう) — (冬とも)
鳥
- 時鳥 (ほととぎす) — 夏の鳥、 その鳴き声が特別視される
- 郭公 (かっこう)
- 梅雨鳥 (つゆどり) — 時鳥の異名
獣
- 蝙蝠 (こうもり) — 夏の夕方
代表句
- 芭蕉「面白うて やがて悲しき 鵜舟かな」 — 鵜 (夏)
- 芭蕉「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」 — 蝉の代表句
- 蕪村「夏河を 越すうれしさよ 手に草履」 — 夏川
- 虚子「金魚玉 天も浮沈 (ふちん) す」 — 金魚
- 草田男「万緑の 中や吾子の歯 生え初むる」 — 夏
7. 植物 — 夏の花と草
花木
- 牡丹 (ぼたん) — 初夏 (春夏の境目、 議論あり)
- 芍薬 (しゃくやく) — 初夏
- 石楠花 (しゃくなげ) — 5 月
- 紫陽花 (あじさい) — 6 月、 梅雨の花
- 柘榴 (ざくろ) — 花・実
- 合歓 (ねむ) — 7 月頃
- 百日紅 (さるすべり) — 7-8 月
- 蓮 (はす) — 7-8 月
- 睡蓮 (すいれん)
草花
- 百合 (ゆり) — 7 月
- 葵 (あおい) — 6 月
- 薔薇 (ばら) — 5-6 月
- 向日葵 (ひまわり) — 7-8 月、 夏の代表
- 朝顔 (あさがお) — (実は秋の季語だが、 現代では夏感)
- 夕顔 (ゆうがお) — 7 月
- 朝露 (あさつゆ) — 夏の朝
- 蓮の花
野菜・食用
- 胡瓜 (きゅうり)
- 茄子 (なす)
- 西瓜 (すいか)
- 玉蜀黍 (とうもろこし)
- 枝豆
- 青柚 (あおゆ) — 未熟の柚子
木・葉
- 青葉 (あおば) — 夏の若葉
- 万緑 (ばんりょく) — 一面の緑、 草田男が確立
- 青田風
- 若葉
- 茂 (しげり) — 木々の茂み
- 柳の絮 (やなぎのわた) — 柳の綿毛
代表句
- 草田男「万緑の 中や吾子の歯 生え初むる」 — 万緑の代表句
- 虚子「牡丹百二百三百門一つ」 — 牡丹
- 虚子「静かなる 力満ちゐて 松の芯」 — 松の芯 (初夏)
夏の季感の変化
現代の 5 月 5 日 (立夏) は、 実感としてはまだ春の続き。 桜が散ってツツジ・藤が咲き、 過ごしやすい気温。 「夏」 と感じるのは 6 月中旬以降。
現代の 8 月 8 日 (立秋) は、 実感としては盛夏のなか。 猛暑・熱中症・お盆休みで、 「秋」 とはとても呼べない。
このズレを解消するために、 現代の俳人は:
- 立夏〜5 月末は「初夏」 として詠む
- 6-7 月は「梅雨」 「盛夏」
- 8 月は「晩夏」 (立秋を過ぎても暑ければ)、 または「残暑」 (秋の季語) として詠む
歳時記の分類と現代の実感 のズレは、 現代俳句の重要な課題のひとつ。
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暑さと勢いの夏から、 澄んだ空気と物思いの秋へ。 次の記事では、 秋の季語 — 月・紅葉・秋刀魚・コスモス・案山子・稲刈 — の世界に入る。 秋は俳諧が最も内省的な情感 を持つ季節で、 名句の数も春に匹敵する。